辻 慶太

卒業研究指導方針(辻慶太)  
 

2024年度 卒業研究指導方針

氏 名:辻 慶太
所 属:知識科学主専攻
研究室:7D512号室

 

指導可能な研究領域

現在,日本では貧困家庭の増加が進んでいます。OECD (2021)によると「大人が1人で子どもが少なくとも1人いる世帯」の貧困率は48.3%で,OECDが挙げる44カ国中3番目に高いです。これより高い国はブラジル(54.8%)と南アフリカ(49.8%)だけです。また子ども食堂は2012年の発足以来増え続け,2018年には2,286箇所だったのが2022年には7,363箇所と,5年間で3倍以上に増えています(認定NPO法人全国子ども食堂支援センターむすびえ (2022))。もはや豊かではない日本の公立図書館は,貧困家庭の子どもの学習や成長に役立つ図書をこれまで以上に提供すべきではないかと私は考えています。こうした背景から現在,以下のような研究を,一部行って下さる方を募集しています。  
 
(a) こども家庭庁,文部科学省,独立行政法人福祉医療機構による「こどもの未来応援基金事業」に選定されている556団体から対象を選び,アンケート調査やインタビュー調査を行って,貧困家庭の子どもに必要・有効な図書を尋ねます。また実際に子どもに提供している図書があればその書誌情報を記録します。  
 
(b) 貧困家庭の子どもを視野に入れたサービスを展開している公立図書館にインタビュー調査を行い,そうした子どもに必要・有効な図書を尋ねます。実際に提供している図書があるならその書誌情報を記録します。  
 
上記のようにして特定した図書を,公立図書館が所蔵し,貧困家庭の子どもを支援する団体に団体貸出することを提案したいです。
 
 
私自身はこの1年で以下の2つの研究を行いました。これらを発展させて下さる方も歓迎します。  
 
(1) 貧困家庭の子どもが公立図書館にあってほしいと思う図書や図書館の利用頻度に関するアンケート調査
 2022年9月に15歳から19歳までの631人にLINEリサーチでアンケート調査を行いました。631人中,相対的に貧困の子どもが多い「一人親または父母なし」の世帯の者は78人で,このうち15人は週1時間以上のアルバイトをしていました。私は,この15人は貧困である可能性が高いとみなし,分析の焦点を当てました。具体的には,公立図書館をどの程度使っているか,公立図書館にあってほしいと思う図書等を尋ねました。結果,上記15人のうち4人,即ち26.7%が週に1回以上公立図書館を使っており,その割合は他の者の3.6%より有意水準0.01で高かったです。即ち,貧困家庭の子どもほど公立図書館を使っている可能性があることが示されました。公立図書館にあってほしい図書として,全体で最もよく選ばれたのは「鬼滅の刃,SPY×FAMILYなどの娯楽マンガ」で,44.4%の者がこれを選んだのに対し,上記15人のうち娯楽マンガを選んだ者は13.3%に過ぎませんでした。彼らが最もよく選んだのは「英語の参考書や問題集」で33.3%に達しました。全般に貧困家庭の子どもは,娯楽マンガより参考書や問題集が公立図書館にあってほしいと考えていることが示されました(Tsuji (2022))。  
 
(2) 公立図書館における中高生向け参考書・問題集の所蔵調査とアンケート調査
 所蔵調査ではまず,参考書・問題集に関する網羅的な通信販売サイトである「学参ドットコム」で人気が上位10%の652タイトルを調査対象としました。次にカーリルの図書館APIを用いて,2022年9月,公立図書館がどの程度それらを所蔵しているかを調べました。結果,6タイトル以上の参考書・問題集を所蔵していた図書館は25館に過ぎず,3タイトル以上所蔵していた図書館は113である一方,全く所蔵していない図書館の数は893にのぼりました。日本の公立図書館は参考書・問題集をほとんど所蔵していない可能性が高いことが示されました。次に3タイトル以上の参考書・問題集を所蔵していた上記113館のうち,メールアドレスや問合せフォームが確認できた67館に電子的にアンケートを送付しました。全く所蔵していない893館からは245館を無作為に抽出し,同じく連絡先が確認できた154館に送付しました。調査は2023年3月に行い,参考書・問題集を所蔵していない理由,書き込みの程度,子ども食堂への団体貸出など貧困家庭を視野に入れたサービス提供の有無,などを尋ねました。結果,所蔵しない理由として最も多かったのは「書き込みへの懸念」で,46.7%(28館)がこれを選んでいました。が,書き込みに関して,参考書・問題集を所蔵している館は「他の図書と比べて変わらない」と回答する場合が最も多く,41.9%(26館)を占めました。「他の図書より多い」と回答したのは2館で, 1館は「少ない」としていました。以上のことから,参考書・問題集を所蔵しても,非所蔵館が懸念している問題は起きない可能性が示されました。子ども食堂への団体貸出を行っている館は,上記62館中では8館(13.0%),60館中では5館(8.3%)にとどまりましたが,前例はあることが確認できました(Ogawa & Tsuji (2023))。  
 
【引用文献】
Ogawa, M. and Tsuji, K. (2023) Study-aid Books and Workbooks in Japanese Public Libraries: Questionnaire and Holdings Survey. IIAI Letters on Informatics and Interdisciplinary Research, 4, p.1-12.
Tsuji, K. (2022) Study-Aid Books, Workbooks, and IT Equipment as New Materials for School Students in Japanese Public Libraries. Jurnal Ilmu Informasi, Perpustakaan, dan Kearsipan (Information, Library and Archive Science Journal), 24(2), p.114-125.  
 
 
ちなみに私はこれまで以下のテーマでも論文を書いてきました。図書推薦はもう飽きた上に適任の先生がたくさんいらっしゃるので気が進みませんが,上記以外のテーマも指導できます。  
 
 (1) 国立国会図書館が所蔵せず公共図書館が所蔵・除籍している図書(2019~21年)
 (2) Wikipedia閲覧者に対する図書館蔵書推薦システムの開発(2016~19年)
 (3) 図書館の利用量を増加させるラーニング・コモンズの要素の特定(2014~15年)
 (4) 貸出履歴等を情報源とした機械学習による図書推薦システムの開発(2011~14年)
 (5) 公共図書館のレファレンスサービスとQ&Aサイトの正答率比較(2009~11年)
 (6) 司書資格取得者のその後の人生に関する追跡調査(2006~08年)

 

研究指導の概要

ゼミは週1回で1人15~30分です。参考になるWebページや各種資料を見せやすいので,コロナが終わってもゼミはZoomで行いたいです。対面を希望される方には対面でやります。

 

研究をすすめる上で望ましい条件

引きこもらない方が望ましいです。

 

受け入れの必須条件

面談をしたいので,配属を希望される方はメールを下さい。私のアドレスは keita@slis.tsukuba.ac.jp です。

 

選考方法

希望者数が定員を超えたことはないので,選考方法などはありません。

 

その他

私が発表してきた論文はこちらにあります。よかったら参考にして下さい。

 

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